ものづくりと物語

Vol.3
サイクロンスティック型クリーナー

進化し続けるロングセラー。
開発技術部 藤澤 元輝

“ものづくりの町”として世界的に知られる新潟県燕三条地域に本社を置く「ツインバード」。その商品にはすべて、開発者の熱い思いと、物語が存在します。今回はツインバードのロングセラー商品「サイクロン スティック型クリーナー」の開発秘話を、現在の担当者の目線からお届けします。

 

 

登場から30年。ツインバードの看板商品

軽いのに、吸引力がある。しかも価格は税別3,890円(※)。サイクロン スティック型クリーナー(TC-E123)は、シリーズ累計100万台を突破したロングセラーであり、ツインバードの看板商品のひとつです。スティック型クリーナーの初期モデルが誕生したのは1990年代半ばのこと。以来およそ30年にわたって、何人もの社員たちが、試行錯誤しながらバトンをつないできました。私自身、入社前からこの製品のことは知っていました。Amazonでもベストセラーになっており、ネットでも話題になっていたからです。そしてこれは、あとからわかったのですが、Amazonの各ジャンル売れ筋ランキングで1位を10年連続獲得。1万件以上のレビューが付いており、ほぼ高評価が並んでいました。

 

「すごい商品がある」。サイクロン スティック型クリーナーについては、どこか遠い存在のように感じていました。ですから、まさか自分がこの製品に関わる日が来るなんて、夢にも思っていませんでした。それは4年前の4月のこと。開発技術部に異動となり、「サイクロン スティック型クリーナー担当」になったときは驚きました。その瞬間、ツインバードのロングセラー商品が、これからもロングセラー商品であり続けるためのバトンが、私に託されたのです。

※2022年8月時点の、ツインバードのECサイト内の価格(https://store.twinbird.jp/products/tce123)

ミッションは、ロングセラーのアップデート

私のミッションはたったひとつ。これからも愛され続けるために、サイクロンスティック型クリーナーをアップデートすることでした。しかしサイクロン スティック型クリーナーは、見た目も構造もシンプルで、完成しているようさえ見えました。こんなにもシンプルな製品に対して、私ができることがあるのだろうか。私はまず、この製品にどんな姿勢で向き合っていけばいいのか、という根本的なことから考え始めました。

 

しかしある日、悩む私の目の前に、意外な形でヒントは現れました。ツインバードでは、朝礼のあとに掃除機をかけるのですが、見ていると、無意識にみんなこのサイクロン スティック型クリーナーを選んでいるのです。なぜだろうと思い、手に取ってみると、たしかに既存製品や他のクリーナーと比べて、使いたくなる理由がありました。軽い割にパワフルですし、手元のスイッチのシンプルさや、ゴミ捨ての簡単さなど、細かいところにも配慮が行き届いている。このクリーナーは、派手な機能こそないものの、圧倒的な「使いやすさ」にあふれていました。

 

掃除機にとって本質的に何が必要で、何が不要なのかが、徹底的に精査され磨き上げられている。小さな積み重ねによって生み出された「使いやすさ」こそが、ロングセラーの秘密。自分がすべきことは、このシンプルな製品をさらに使いやすくすることなのだと、私は気づかされました。

細部に見つけた、先輩たちの努力の跡

サイクロン スティック型クリーナーの担当者になってから、私は先輩たちの努力の数々を知ることになりました。たとえばこのクリーナーは、重さ1.7kg、吸込仕事率70W。想像以上に軽く、パワフルな吸引力を備えていますが、それは決して、容易なことではありません。

 

掃除機は、重さとパワーのせめぎ合いです。パワーを上げると重くなり、軽くするとパワーが下がる。そこへさらに「価格」を加えたベストバランスを探すことが、非常に難しいプロダクトです。そこでツインバードでは、価格と重量を抑えながら吸引力を向上するために、掃除機の構造そのものに工夫をこらしています。

 

現在の形状となった2002年、ツインバードはある特許技術を出願しました(※)。それが吸い込み口の流路と、遠心分離をするためのダストケース部を一体化させる構造です。従来の掃除機では、吸い込み口の流路とダストケース部が別々のパーツとして組み合わさっていましたが、パーツを一体化することで、軽量化できるのはもちろん、製造コストもダウン。さらにゴミを吸い込む経路(流路)をほぼ直結にさせることで、吸引力を高める効果もあります。これも先輩たちが生み出した、ロングセラーを支える技術のひとつです。

 

※2007年特許権取得。2023年現在、特許権は満了しています。

ツインバードの一体型ダストケース

 

ほかにも、使いやすくするための工夫がいくつもあります。なるべくスリムに、デザインもシンプルにすることで、部屋のインテリアとの調和を計算している点や、コードが足に絡まないように「コード掛け」を設けていることもそのひとつです。そのすべては、先輩たちが試行錯誤を繰り返した証です。

コード掛け

 

どれも小さなことですが、工夫の積み重ねがロングセラーにつながっている。ならば、それをさらに積み上げていき、使う上でのストレスを極限まで無くしていきたい。私は技術者として、自分に何ができるかを模索し始めました。

「断線は仕方ない」という理屈は、通用しない

私がまず取り組んだのは、電源コードの強化でした。

 

きっかけは、ツインバードのカスタマーサポートに届く、お客様の声です。ひとつひとつの声を見ていくと、実は故障原因でいちばん多いのが、電源コードの断線であることがわかったからです。「断線を無くしたいならば、コードレスにすべきでは」と感じる方もいるかもしれません。しかしコードレスにするためには、バッテリーが必要です。そうすると、駆動時間に制限が生まれ、価格も高くなってしまいます。

 

コードがある以上、断線を完全になくすことは非常に困難です。しかし、「だから断線するのは仕方ない」という理屈は、お客様には通用しません。コードを付ける以上、私には断線しないように徹底的に研究する義務があると思いました。

研究を重ねて見えた、ひとつの解決策

私は何度も実験を重ね、まずは断線の原因を探りました。すると、根本的な原因は“ねじれ”による金属疲労であることがわかりました。掃除機は移動させながら使う家電ですから、コードのねじれをなくすことは、物理的に不可能です。しかしここで諦めてしまっては、「安かろう悪かろう」と思うお客様がいらっしゃるかもしれません。それでは先輩たちの努力がすべて無駄になってしまいます。

 

ですが、どれだけ実験を重ねても、ねじれをなくすことはできませんでした。ならばと、「ねじれを分散させる」ことで耐久性を上げるアイデアを思いつきました。付け根の箇所(ブッシング)をなるべく長い蛇腹にして、ゆるやかに、少しずつねじれるような設計にしたのです。これによって現在では、電源コードの断線による故障は、相当数減らすことに成功しました。そのときの喜びは、いまでも忘れられません。先輩たちの継承してきたバトンを、自分もようやく受け取ることができたと思いました。

良くできる箇所は、まだ無数にある

いまや、サイクロン スティック型クリーナーは、ひとり暮らしの「ザ・定番」。新生活でいちばん最初に買う家電です。これまでどれだけの学生や、新社会人の方たちを支えてきたかわかりません。結果この商品は、ロングセラーとして、現在も多くの方にご愛用いただいており、それは私たちの誇りでもあります。

 

このクリーナーは、ツインバードのアイデアと努力の結晶です。これからもサイクロン スティック型クリーナーを進化させていく。それが私の使命です。良くできる箇所は、まだ無数にあるはずですから。

藤澤 元輝(ふじさわ・げんき)
ツインバード 開発技術部

設計部を経て、4年前に開発技術部に異動。サイクロン スティック型クリーナーのエンジニアを担当。これまでに、コードレススティック型クリーナーやハンディークリーナーなどのクリーナー関連の開発に携わる。開発における信条は「お客様の不満をゼロにすること」。

サイクロン スティック型クリーナー TC-E123

軽さとパワフルさを両立させたサイクロン式のスティック型クリーナー。1.7kgという軽量でありながら、70Wの吸込仕事率で楽に掃除ができます。サイクロン式だから、紙パックいらずで吸引力も持続。ダストケースは水洗いも可能で、スティック部分を外せばハンディークリーナーとしても使用できます。手間なく掃除ができるから、部屋のキレイが長く続く。気軽なクリーナーをぜひ、体感してみてください。

 

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