ものづくりと物語

Vol.4 2ドア冷凍冷蔵庫

冷凍容量比率を見直したことで生まれたイノベーション。
企画デザイン部 神成 紘樹

“ものづくりの町”として世界的に知られる新潟県燕三条地域に本社を置く「ツインバード」。その商品にはすべて、開発者の熱い思いと、物語が存在します。今回はグッドデザイン賞も受賞したツインバードの自信作「2ドア冷凍冷蔵庫」の開発秘話を、現在の担当者の目線からお届けします。

 

 

ビジネスパーソンに徹底的に寄り添った、「2ドア冷凍冷蔵庫」

ライフスタイルや価値観は、時代に合わせて大きく変化しています。なのに、小型冷蔵庫の“容量比率”は、長い間、変わっていませんでした。冷凍室は、冷蔵室よりも容量比率を下げるのが慣例でした。しかしツインバードの「2ドア冷凍冷蔵庫」は、単身のビジネスパーソンに徹底的に寄り添い、冷蔵と冷凍の容量が“1対1”の冷蔵庫を提案。冷凍容量を再定義したことが評価され、グッドデザイン賞も受賞しました。ただ、このプロダクトが完成するまでには、数多くの困難を乗り越える必要がありました。

現代の暮らしに、きちんと向き合った冷蔵庫を

ツインバードは1951年に創業し、もともとはメッキ加工を主体とする事業を展開していました。1984年から本格的に家電事業に参入し、今日までさまざまなチャレンジを続けています。「2ドア冷凍冷蔵庫」もそのひとつです。白物家電への本格参入をめざし、冷蔵庫の開発チームが発足した際に、私は、そのメンバーのひとりに選ばれました。既存の金型を使わない本プロジェクトでは、本体設計からすべてを新しく開発できる。これまでの冷蔵庫の常識にとらわれずに、現代の暮らしに向き合った製品を作ることができるチャンスだと私は思いました。今の時代が求めている、本質的な価値をとらえた家電が作り出せるかもしれない。しかも新製品のターゲットは、私と同じ、単身のビジネスパーソン。自分の感覚を製品開発に活かせることも大きな武器になると感じました。

 

そこでまずは、「これまでの当たり前」を排除して、冷蔵庫をどう使っているか、フラットに自分自身の生活を考察してみました。週末に買ったものをまとめて調理して、“冷凍室”に作り置きを入れて1週間で使っていく。自炊するかはともかくとして、多くの単身ビジネスパーソンが自分と同じように、冷凍室を重宝しているのではないか。だから冷蔵室にはゆとりがあるのに、冷凍室はいつも満杯。配置に工夫をしながら詰め込むのが常になっている─。「実は冷凍室は、もう少し大きくしてもいいんじゃないか」。そんな考えが頭をよぎりました。まさか、この小さな発見が、グッドデザイン賞の受賞にまでつながる「アイデアの種」になるとは、そのときは思ってもみませんでした。

先入観に阻まれた、新たな視点

冷蔵庫が生まれてから数十年。ライフスタイルが変化しているのにも拘らず、実は冷蔵庫の「冷蔵室と冷凍室の比率」は長い間、変わっていませんでした。冷凍よりも冷蔵の容量が多いのが当たり前。だいたい7対3で、冷蔵容量が大きくなっています。しかし、それは誰のためなのか。本当に世の中の人はそのバランスを求めているのか。私の疑問は日に日に大きくなっていました。小型冷蔵庫の冷凍容量の最適化。私はそこに新製品のヒントがあると考え、リサーチを実施しました。単身ビジネスパーソンを対象にしたアンケート調査のほかに、実際にひとり暮らしの知り合いを訪ねては、冷蔵庫の利用状況を細かにヒアリングしてきました。すると、やはり料理を冷凍して作り置きにしたり、冷凍食品を活用したりする機会は多く、「冷凍の容量不足」を感じているという声が多くありました。ならば冷凍容量を思い切って拡張することで、彼らの生活を支えることができるのではないか。こうして単身ビジネスパーソンの暮らしに寄り添った結果、冷凍室は73L必要であり、いっぽうで冷蔵室は73Lあれば必要十分である、という結論に至りました。

 

さっそく、社内でこの容量を提案したところ、これまでの「常識を覆す発想」に、賛否両論が出ました。なぜなら、冷蔵庫の主な機能は「冷やすこと」であり、「凍らせること」ではないという先入観があったからです。つまり、冷蔵の容量が少ないことは“不便”につながるという意見です。しかし現代の単身世帯において、冷凍ニーズは冷蔵ニーズと同等。どうすれば、納得してもらえるのだろう……。私は悩み、この73Lずつ、1対1の冷凍冷蔵容量でも「不便」ではないことを可視化して証明しようと考えました。まずは、スーパーのドレッシングや牛乳、ケチャップなど、ひとり暮らしの方の冷蔵室にあるものを集め、そのサイズを計測。棚板やドアポケットのデッドスペースをなくす構造にすれば、容量不足にならない、必要十分な冷蔵容量を確保できることがわかりました。

「2ドア冷凍冷蔵庫」では、容器サイズに合わせて柔軟にレイアウト変更できる設計にすることでデッドスペースをなくしている

次に、実際に自宅の冷蔵庫の写真を撮影。「リアルな単身世帯の冷蔵庫の中身」を見せながら、あわせて単身世帯のライフスタイル、冷凍機能の活用ニーズの高さを社内でプレゼンテーションしました。入念に調査を重ね、自分自身の実感からも手応えを感じていた私は、この容量比率こそがベストであると確信していました。なんとかして、この新しい冷蔵庫の良さをわかってほしい。これまでの先入観を取り払って、本当に必要とされている冷蔵庫の形はなんなのか、あらためて考えてみてほしい──。そんな私の思いが通じたのか、これまで反対派だった社員も「たしかに一理ある」と納得してくれました。こうしてついに、新しい発想の冷蔵庫の開発は本格スタートしたのでした。

直面した「取り出しづらさ」という課題

商品化に向けて動き出すと、これまでの冷凍室では直面しなかった問題にぶつかりました。それは「取り出しづらさ」です。小型冷蔵庫の多くは、冷凍室が縦方向に深い構造になっており、容量を拡張すると、先に入れたものが下の方に埋もれてしまうのです。容量が大きくなっても、使い勝手が悪いのであれば、それは本質的な価値を持つ商品とは呼べません。解決のヒントは意外なところにありました。それは冷凍室のすぐ上、冷蔵室でした。冷凍室も冷蔵室と同じように、段を細かくわけて取り出す形にすれば、中に入れたものが出し入れしやすく、効率よく多くの食品を収納できるのではないかと考えました。

 

では、何段にわけるべきなのか。私は悩み、スーパーでさまざまな冷凍食品を購入して、サイズの計測をしてみました。その結果、アイスクリームなどの高さの低いものが1段、冷凍食品や作り置きなどを入れておく棚が2段、そしてパンや冷凍うどんなど、高さのあるものを立てて並べられる棚が1段、合計4段にわけるのが、もっとも効率的であるという結論に至りました。さらに、横に大きく開いた時の冷気漏れを防ぐために各段には引き出し式を採用。結果的に、座り込まずに上から取り出すこともできるようになり、まさに一石二鳥の構造となりました。

「2ドア冷凍冷蔵庫」の冷凍室は引き出し型、4段構成になっている

本質を追求した、ノイズレスなデザイン

2ドア冷凍冷蔵庫でこだわった点は、容量の最適化だけではありません。外観デザインも、時代が求めている”本質的な冷蔵庫の価値”に見合ったものを追求しました。外観は極力シンプルに、プリミティブに。生活空間でノイズを感じさせないものにしたいと考えました。冷蔵庫のなかには、家電量販店で目立つために、過度なデザインをされているものも数多く存在します。ロゴが大きかったり、一見おしゃれな差し色が使われていたり。しかし、使う人にとって最も重要なことは、自宅のインテリアとの調和です。売り場で目立つことを考えてデザインを決めるのは、本質からいちばん遠いところにあるように思えました。

 

だからツインバードの「2ドア冷凍冷蔵庫」では、ロゴを排し、色も何度も試行錯誤することで、生活に馴染むデザインを検証していきました。たとえば、同じ「白」でも、ちょっとの色味や質感でまるで違って見えます。本当に微妙な調整を何度も重ねました。会社で作った試作品を、近くに住む同僚の家まで運び、家の明かりの下で見た時にどんな見え方をするのかを検証したこともありました。こうして、色を調整しては、実際に試作品を作り、実際に置いてみる。その繰り返しのなかで、ようやく現在のカラーにたどり着きました。色の反射は自己主張になるため抑え、また開閉に際し手が触れるドアの質感にもこだわり、生活の一部となるような、ノイズレスなデザインを目指しました。もしかすると、写真だけ見ると、一見地味な印象を受けるかもしれません。しかし部屋に設置してみると、不思議なことに、まるで以前からそこにあったようなフィット感が生まれます。

冷蔵庫はインフラ。選び方で、暮らしも変わる

冷蔵庫はあって当たり前の家電です。誰でも持っているし、使っている。いわば、暮らしのインフラのひとつ。だからこそ、冷蔵庫選びは、ライフスタイルにまで影響を与えるほど重要なものなのです。冷凍室に余裕があると思えば、買うものだって、食生活だって変わってきます。多めに作って冷凍することもできるし、余ったら冷凍すればいい。冷蔵と冷凍が1対1の冷蔵庫は、これまでの当たり前を覆し、単身のビジネスパーソンの暮らしに“ゆとり”を届けることができた製品だと感じています。

 

新たなカタチの提案。それは、冷蔵庫のイノベーションでもありました。グッドデザイン賞の受賞はまさに、その証明です。受賞理由である「単身世帯のライフスタイルにフィットする冷蔵庫の提案」「その人にとってちょうどいいものとは何かが考えられた優れたデザイン」というポイント(※)は、私たちがこだわった点そのものです。

※詳細はこちらをご覧ください。

 

冷凍容量比率の見直しによって生まれた「2ドア冷凍冷蔵庫」は、単身ビジネスパーソンの暮らしを見つめ、冷蔵庫の在り方を再考したことで誕生しました。無駄を削ぎ落としたデザインは、まさに私たちの掲げる”感動シンプル”の思想を体現した製品だと考えています。

 

ぜひ、ひとりでも多くの方に、「冷蔵庫で暮らし方まで変わる」という体験をしていただけたらうれしいです。きっと感動していただけるはずだと、私たちは信じています。

神成 紘樹(かんなり・ひろき)
ツインバード 企画デザイン部

前職で企画営業を経験。その後、2019年にツインバードに入社。企画デザイン部に配属される。2ドア冷凍冷蔵庫のほかに、調理家電の開発にも携わる。

商品開発における信条は「当たり前を疑い、本質を考える」。

2ドア冷凍冷蔵庫 HR-F915W

「2ドア冷凍冷蔵庫」は、”冷凍食品や作り置きをたくさん冷凍したい”というお客様の声から商品化。クラス最大級※の冷凍容量を搭載した、一人暮らしやサブ冷蔵庫におすすめの冷蔵庫です。

※2023年1月現在 200L以下クラス 国内販売 当社調べ

製品ページはこちら