ものづくりと物語

Vol.5 防水ヘッドケア機

匠の“指”を再現した、ものづくりの真骨頂。
開発本部 高橋 純子

“ものづくりの町”として世界的に知られる新潟県燕三条地域に本社を置く「ツインバード」。その商品にはすべて、開発者の熱い思いと、物語が存在します。今回は、ヘッドスパ美容の匠の技を再現したツインバードのハイエンドモデル「防水ヘッドケア機」の開発秘話を、当時の担当者の目線からお届けします。

 

 

防水ヘッドケア機

まったく新しい、頭に使う美顔器「防水ヘッドケア機」

ツインバードには、頭皮洗浄ブラシ「モミダッシュ」という人気製品がありました。手洗いだけではなかなか取れない毛穴の皮脂をもみ出す「モミダッシュ」は、テレビでも取り上げられたり、ヘアサロンでも使用されたりするなど、人気を博していました。私たちは「モミダッシュ」を進化させ続け、最終的に5代目を世にリリース。利便性の向上、操作性の向上と、さまざまな角度から製品をアップデートするなかで、“洗う”だけではなく、“揉む”=気持ちよさに特化したモノも作ってみたいと考えるようになりました。

 

そうして誕生したのが、まったく新しい発想の頭に使う美顔器「防水ヘッドケア機」です。匠の指による施術を再現した構造・動作は、まさにプレミアムな体験を届けてくれます。通常の製品であれば、開発はおよそ1年。しかし「防水ヘッドケア機」はその3倍、3年の歳月を要しました。ようやく開発が落ち着き、発売まで至った日のことは、いまでも忘れられません。そして最後まで私たちを信じてくださった、ヘッドスパ美容の第一人者であり、美容施術家の山本幸恵先生には、今でも心から感謝しています。

お客様の声から生まれた「頭に使う美顔器」という発想

ものがたりのはじまりは、2011年。新製品を開発するプロジェクトが発足し、私はそのリーダーとなりました。プロジェクトの方針は、美容、キッチン、ランドリーなど、カテゴリーごとに“新しい価値”を発見すること。難しいお題でしたが、ツインバードにとっては重要なプロジェクトです。まずは、当社のカスタマーサポートに寄せられた声を分析してみようと考えました。試しに、自分自身が開発に関わっている「モミダッシュ」の声だけを抽出してみると、そこに気になるコメントをいくつか発見しました。

 

「頭皮をマッサージすると、フェイスラインがすっきりする」

「頭をケアすると、目がぱっちりする」

 

その声と、漠然と思い描いていた「揉む(=気持ちよさ)に特化した製品」が“美容”というキーワードで、私の中でつながりました。頭のケアから生まれる“美”の可能性を探ってみよう。こうして新製品の開発コンセプト、「頭に使う美顔器」、「提供価値は小顔・リフトアップ効果」という2軸が決定しました。ですが、そのために何が必要で、何をするべきなのか。これまでになかったコンセプトの家電に、私たちはスタートラインで立ち止まってしまいました。

ヘッドスパの匠の心を動かした、一通のメール

はじめの一歩は、意外な形で訪れました。ヘッドスパ美容の第一人者であり、美容施術家の山本幸恵先生は、20年間で3万人の頭に触れてきたヘッドスパの匠です。ちなみに、いまではよく耳にする「頭をマッサージすることによってフェイスラインが上がったり、体調がよくなったりする」効果が期待されるというのも山本先生が研究の末に見つけたことです。先生のヘッドスパは、夢心地のような気持ちよさであると評判になり、2007年頃から、先生はさまざまなメディアに出演されていました。書籍や雑誌への寄稿もされていて、私はその書籍のひとつを偶然手に取りました。

 

「山本幸恵先生が監修してくれたらいいのに……」

 

そんな突拍子もない発想がふと頭に浮かびました。しかし先生の注目度は非常に高く、各社が新製品の開発オファーをしているような状況で、先生自身もオフィシャルサイトでこう記しています。「当時、ありがたいことに様々な企業様から商品開発などの企画が持ちかけられていましたが、どの企画も納得いかず、ともすると単にウケのいい商品をつくることになりかねないと思い、全て丁重にお断りさせていただいていました」(※)

 

有名な先生に監修をお願いしたところで、きっと断られるに違いない……。ですが、何もせずに諦めるなんて、ツインバードらしくない! 私は思いの丈を込めて、メールを送りました。すると、そのメールを先生は「ただの企画書ではない『ものづくりへの想い』のこもった一件のメール」(※)と感じてくださり、面会の機会をいただくことになったのです。ヘッドスパの第一人者が、私たちに興味を持ってくださった。それはまるで、夢のような出来事でした。そして、先生のお言葉をほぼそのままお借りすると、「いいものを作るためにはとことんこだわる」というツインバードの姿勢と、山本先生の「施術への情熱とこだわり」が共鳴し、ヘッドケア機開発の第一歩を踏み出したのでした。

 

出典:Yukie Yamamoto official site

困難を極めた、匠の“指”の再現

実際に山本幸恵先生のヘッドスパを体感してみると、まさに「夢心地」。最高の体験がそこにありました。この施術を機械で再現できれば、「頭に使う美顔器」という今回の製品のコンセプトをまさに体現したものができる。私は確信にも近い思いを感じていました。しかし、先生の手技を再現するということは、簡単なことではありませんでした。開発当初は施術を「感覚」で伝え合っていたため、何度も作ってはやり直しに。数ヶ月間を費やした結果、私たちがたどり着いたのが「計測」という手法です。

 

先生のヘッドスパは、両手の指を使って頭をもみほぐします。その指の動きをセンサーで正確に計測していけば、感覚でしか捉えられなかった先生の施術を、機械で再現することも可能になるのではないか。さっそく、先生の手の動きをセンサーで計測していきます。一見、すべての指で均一に揉みほぐしているように見えますが、センサーで計測してみると、ひとつひとつの指がまったく異なる動きをしていることがわかりました。親指で引き上げ、人差し指と中指を回転させながら、10本の指で頭を絞るようにして揉みほぐす。

 

さらに「速度」にも秘密がありました。ヘッドスパは、実は動きを速くしても効果はアップしません。むしろ、スピードを上げると頭部の筋肉をとらえにくくなってしまうため、逆効果になります。先生のテンポは、人の心拍数に近く、自然なリズムだからこそ心も身体もリラックスできるのでしょう。

 

しかし理屈がわかれば再現できるかというと、そんな簡単なことではありません。まずは、先生の手を再現するために、片手のすべての指を取り入れるイメージで5つのアタッチメントからなる試作品を作成してみました。しかし、実際にヘッドスパを受けたときに味わった、あの感動はそこにはありませんでした。問題は頭部の筋肉をとらえるための、”つかむ”動きの再現でした。なでるように動かすことはできるのですが、アタッチメントを頭部を絞るようにして動かそうとすると、髪が絡まってしまい、絶妙なバランスで“頭をつかむ”ことは、非常に困難でした。

 

どうすれば、問題を解決できるのだろう。確実なことは、何かが足りないということ。その何かとは、非常に意外なものでした。私たちは先生の指を再現しようと思うがあまり、「5本」のアタッチメントに固執していました。しかし本当に再現したいのは、先生の技です。つまり、アタッチメントの数は自由でよかったのです。それに気づいたとき、「6本」のアタッチメントにするという発想にたどり着きました。6本あれば、両手でしっかりと頭を揉みほぐす動きを、最小限のサイズと重量で再現できる。計測からも、親指・人差し指・中指の動きが、先生の施術で重要な役割を果たしていることはわかっていました。実際にアタッチメントを増やしてみると、1本1本のアタッチメントがしっかりと、かつ滑らかに頭を“つかむ”動作を再現することができました。この6本という発想こそが、まったく新しい「頭に使う美顔器」を生み出した独自技術の肝ともいうべきものであり、私たちはその瞬間、完成に向けて、大きく前進したのでした。

デザインを何度も見直し実現した「耐水性と操作性」

防水ヘッドケア機は、まったく新しい「頭に使う美顔器」です。忙しい日常生活の中でも使いやすいよう、湯船につかりながら使用できる防水仕様にしたい。そのためには、片手で楽に持てる「サイズ」と「軽さ」であることが必須です。ですが、そもそも複雑な動きをする6本のアタッチメントを動かすためには、それなりの大きさが必要で、さらに防水性能まであわせ持つとなると、さらにサイズが大きくなってしまいます。結局、必要な要素だけを詰め込んだ試作品は、大きくて重い。とても美顔器と呼べるような代物ではありませんでした。私たちは、「耐水性と操作性の実現」という壁に直面したのでした。山本幸恵先生が待っている。そう思うと、諦めることは絶対にできないと思えました。私たちは何度も何度もデザインを見直し、ひとつずつ根気よく丁寧に修正していきました。

 

それは、気が遠くなるような作業でした。しかし私たちは着実に、ゆっくりと前進し続け、最終的に、片手で楽に持つことができる重量と、毎日お風呂で気軽に使える、理想のカタチにたどり着くことができました。ケア(= 手当て)が意味するやさしい使用感を実現するために、本体をただ持って押し付けるのではなく、手のひらを頭に添えるようにして使用できる形状にしたのもポイントです。こうして、重さもサイズも機能も、すべての要件を満たした試作品が完成しました。それは、まったく新しいコンセプトのヘッドケアマッサージャー。私たちがゼロから生み出した製品は、まるで一種の美術品のような佇まいさえあり、その場にいた誰もが感動していました。

山本幸恵先生も太鼓判を押した「防水ヘッドケア機」

さまざま紆余曲折がありながら、ついに顔に触れることなく、頭部をすっきりとリフレッシュできる頭に使う美顔器「防水ヘッドケア機」は誕生しました。すぐに私たちは山本幸恵先生に実物を見せに行きました。すると先生は「素晴らしいですね」と大絶賛してくれました。発売後、山本幸恵先生自ら宣伝してくださったこともあり、「防水ヘッドケア機」は大きな話題となりました。

 

完成まで3年。諦めなかった開発スタッフの努力と、そしてその間、私たちを信じ続けてくれた山本幸恵先生には、感謝しかありません。また完成後も、お客様に効果を実感していただくために、営業チーム・販促チームとともにさまざまな試行錯誤を重ねています。これまでにない「頭に使う美顔器」というコンセプトだからこそ、まずは手にとっていただくために売り場や販路を工夫したり、使い方をイメージしていただくために動画を用意したりと、チームの尽力は枚挙にいとまがありません。

 

デザイン、構造、使い心地、そしてその伝え方まで。この製品は、すべてにツインバードの技術と努力の結晶が詰まっています。私たちが開発した初号機以降も後任の世代が様々な点でアップデートを続け、その機能とデザインはますます磨きがかかっています。ぜひ、「防水ヘッドケア機」をひとりでも多くの方に手に取っていただき、山本幸恵先生も太鼓判を押すその感動を体験してもらえたら嬉しいです。

高橋 純子(たかはし・じゅんこ)
ツインバード 開発本部

ツインバードに入社以来、防水ヘッドケア機のほかに、フェイススチーマーやモミダッシュなどの美容家電の開発に携わる。

商品開発における信条は「価値の提供」。

防水ヘッドケア機 TB-G001JPPW

20年間で3万⼈の頭に触れてきた経験を持つ、ヘッドスパ美容の第⼀⼈者/美容施術家 ⼭本幸恵先⽣と、3年の歳⽉をかけて開発したヘッドケア機。頭部から顔の輪郭を⽀える”深頭筋”をもみほぐしつつ引き上げる⼿法を再現し、フェイスラインをケアします。

 

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