ものづくりと物語

Vol.6 コードレススティック型クリーナー

こだわったのは、「本質」と「ニーズ」の追求。
企画デザイン部 古川 泰之

“ものづくりの町”として世界的に知られる新潟県燕三条地域に本社を置く「ツインバード」。その商品にはすべて、開発者の熱い思いと、物語が存在します。今回はツインバードのイチ推し商品「コードレススティック型クリーナー」の開発秘話を、当時の担当者の目線からお届けします。

 

 

コードレススティック型クリーナー(TC-E264)

衛生面に配慮し、あえて紙パック式を採用

みなさんは、コードレス型のクリーナーと聞くと、サイクロン式をイメージされる方が多いのではないでしょうか?しかしツインバードのこのコードレスクリーナー(TC-E264)では、あえて紙パック式を採用しています。その理由は、衛生面にあります。サイクロン式ではゴミを捨てる際に、ほこりが舞い上がってしまいますが、紙パックであれば、ポンと捨てるだけ。非常に衛生的だからです。

 

ツインバードのクリーナーといえば、コード付きのロングセラー製品「サイクロン スティック型クリーナー」があります。誕生から20年以上にわたり愛され続ける看板商品は、現在も細かなアップデートを続けています。一方で、コードレス型のクリーナー市場も、急速に拡大していました。実は、今ほど市場が盛り上がる前から当社はコードレス型のクリーナーの開発をし続けており、そこに急速な市場の拡大という機運が重なり、いま一度あらためてコードレスクリーナーを抜本的に見直し、現代に合った本格的なコードレスクリーナーを作るためのプロジェクトが立ち上がりました。

 

私は当時、担当者に抜擢されました。ですが喜びも束の間、後発メーカーとして、いかにクリーナーの本質と向き合い、プロダクトに落とし込むかという課題と直面しました。そのとき、たまたまテレビで、アトピー性皮膚炎で悩まれている方が増えているというニュースを目にしました。調べてみると、アトピー性皮膚炎は、ダニ、ハウスダスト、花粉、ペットの毛などの成分が原因になるケースも多いことがわかりました。ならばと、「衛生的で誰にとっても使いやすい」紙パックのコードレススティック型クリーナーを生み出すことができれば、お困りの方の助けになるのではないかと思うに至りました。しかしその実現には、クリーナーの本質的な価値を模索し続ける、“試練の日々”が待っていました。

微細な粉末を99.6%キャッチする不織布素材を使用し、ホコリの舞い散りが少なくゴミ捨ての不快感を軽減

物を減らすことで見えた、クリーナーの本質

早速、私はデザインを考え始めました。当時、力強さを感じる未来感のあるデザインがトレンドだったこともあり、そのアウトラインをクリーナーに落とし込み、初期デザインを作成しました。全体はスタイリッシュでありながら、パワフル。持ち手の部分にまでこだわった未来感ある佇まい。いい意味でのメカメカしさも含め、個人的には気に入っていたのですが、重量がおよそ1.9kgと、想像以上に重くなってしまったことで、断念しました。

もうひとつ、このデザインには大きな問題がありました。見た目(パワフルで未来感のある印象)を優先したことで、部屋の「インテリアとの調和」という視点が足りていなかったことです。たしかに単体でパッと見は目を引くかもしれないけれど、クリーナーはインテリアの主役ではありません。クリーナーにはクリーナーのあるべき姿があるはずなのです。しかしいくら考えても、その答えはわかりませんでした。

 

そもそも当時の私には、“正しいクリーナーの在り方”を考える余裕もありませんでした。仕事は忙しく、クリーナーの開発をしているのに、家は散らかり放題。このままでは駄目だ。そう思い、私は自らの心の整理も兼ねて、不要なものを一度すべて捨ててみることにしました。いわゆる断捨離ですね。

 

ベッドも捨てて、すっきりとした部屋を眺めていたとき、ふと、ある真理に気がつきました。それは、掃除をするためには、掃除しやすい環境が必要である、ということです。ならば、クリーナーの理想とは、掃除しやすい環境に寄与するもの。軽くて、使いたいときにサッと使えるよう、部屋の一部のように存在する。サイズやデザインを理由に、出し入れが困難では本末転倒です。こうして私は、断捨離を通じて、クリーナーの目指すべき本質的な姿を見つけることができました。

試行錯誤の末にたどり着いた、カラーの最適解

本質的な機能とデザインを備えた、コードレス型のクリーナー。私は広くなった部屋でひとり、あらためて、そのあるべき姿に必要な条件を考えていました。デザインは、インテリアとしての調和を意識し、シンプルなカラーリング。重量は扱いやすい1.4kg前後。自立式で壁に立てかけることができれば、「部屋の一部」となり、いつでも思い立った瞬間に、掃除機をかけることができる。

 

では、この要件をカタチにするためにはどうすべきか。まずはカラーリング。シンプルで美しく、インテリアと調和するような配色が理想です。試行錯誤を重ね、さまざまなパターンを試してみました。最終的に、スタイリッシュや高級感というイメージを持つモノトーンの「マットブラック」を採用することで、主張し過ぎない無機質さと、高級感をたたえる存在感を生み出すという結論に至りました。

ミニマルな美しさを追求し、先発品のTC-E261ではシルバーを、その後のTC-E264ではさらに落ち着いたマットブラックを採用した。

使いやすさのヒントを得た、フローリングワイパー

目指したのは、見た目が美しく、使いやすいクリーナー。次に私は、使いやすい掃除機のカタチについて、考え始めました。ヒントになったのは、併用することで掃除の効果を高めるフローリングワイパーです。部屋の隅に立てかけておいて、気が向いたときに、さっと取り出せる。「これだ!」と思いました。

 

では、この“ラクラク感”をクリーナーでも再現するためには、どうすればいいのか? 私は広くなった部屋で、ひたすらフローリングワイパーを使ってみました。部屋はどんどんきれいになるのですが、思考はまったく整理されない。諦めかけたそのとき、私は家具の脚の接地面にも形状に沿わせて使えることに気がつきました。

 

通常のクリーナーは、ヘッドが固定されていることが多く、狭い場所や入り組んだ家具の脚(ダイニングテーブルと椅子の隙間など)は使いづらいもの。この「ヘッドが自在に動くことで、どこでも、すぐにきれいにできること」こそが、フローリングワイパーの本質的な価値なのだとわかった瞬間、目の前が開けたような気持ちになりました。あの自在性を再現するべく、回転ジョイントとボールキャスターによる左右90°に回転するヘッドを新たに開発。これ(※1)により、家具の脚の接地面や入り組んだやすき間、ベッドやソファーの下もきっちり掃除可能なクリーナーへと進化しました。

ツインバードが独自開発(※1)したヘッドにより、自由自在に狭い場所でも楽に掃除機をかけることができる ※1 特許取得済み 特許第7080094号

使いやすさのためには、軽さも重要です。しかし規格サイズでは、収まらないケースもありました。機能を増やせば、その分、重くなる。そのせめぎ合いのなかで、ゴミ感知機能による自動のパワー調整、充電はフックにかけるだけという利便性を担保しつつ、軽量化を実現したい。そこでツインバードの開発チームは、デザイン性と機能性を両立するために、紙パック、モーター、リチウムイオンバッテリー、すべてを収納し、かつ美しくなるための創意工夫を重ね、現在のデザインにたどり着きました。

持ち手にも疑問を抱き、角度を追求

ヘッドを新規開発したことで、ツインバードの新型コードレスクリーナーは、大きく前進しました。しかし私はまだ、悩んでいました。フローリングワイパーのようなあのヌルヌルとしたスムーズな動きや、フルフラットにできる使いやすさを、クリーナーのデザインに落とし込みたい。しかしそのためには、お客様が自由な使い方をしても、持ちやすさが同時に保たれる最適なカタチに落とし込む必要があったのです。

 

では、楽に使える最適なカタチとは、どのようなものか。たとえば、総務省発表の日本の成人女性の平均身長、158cmの女性がこのクリーナーを使うときに、持ち手はどの角度が使いやすいと言えるのか。よりよいカタチがあるのではないか。私は検証を始めました。さまざまな傾斜を人間工学的な視点も取り入れて、何度も実験。たどり着いたのが、およそ30度の傾斜でした。

 

掃除機をかける際、立った状態で片腕を床面に対して伸ばして使うと思います。しかし本クリーナーでは、その動作時にハンドルのラインが地面に対して水平になるよう、あえて直立時に角度を付けたデザインにしています。加えて、ハンドルを握る箇所のちょうど真下にヘッドの回転軸の中心を配置。これにより、腕を回すと、ヘッドが呼応して動いてくれるので、気持ちよくお使いいただけるのです。

持ち手に傾斜をつけることで、フローリングワイパー感覚で使える、クリーナーの高い操作性を実現した

掃除からはじまる、豊かな暮らし

開発当初の私は、人生のどん底にいました。仕事も恋愛もうまくいかない。自己管理もできておらず、体重もいまから比べると5kg以上も重く、自分でもだらしない人間だったと思います。しかし「掃除」と向き合うことで、私は自分自身の部屋をきれいにし、心を入れ替えることができました。だからこの製品が発売されたときは、本当にうれしかったですね。余談ですが、結婚したのも発売時期と重ねっており、二重の喜びに私は包まれていました(笑)。

 

大袈裟だと思われるかもしれませんが、掃除には、人を変えるチカラがあります。掃除をすることで、部屋もきれいになり、心も豊かになります。そのための道具としての最適解が「使いやすさ」と「シンプルなデザイン」でした。本質を追求することで生まれたのは、ツインバードの掲げるブランドラインのひとつ「感動シンプル」を体現したプロダクトです。

 

コードレススティック型クリーナーは、掃除のあり方を変えるクリーナーです。決して安いとは言えないかもしれません。しかしこのクリーナーには、それだけの価値があります。開発者であり、いち利用者でもある私が、自信を持って、おすすめできる逸品です。ぜひ手に取って、掃除から始まる豊かな暮らしを体感してみてください。

古川 泰之(ふるかわ・やすゆき)
ツインバード 企画デザイン部

2011年ツインバード入社以来、デスクライト・IH調理器・ドライヤーなどの多岐にわたる商品の企画・デザインに携わる。開発における信条は「八方美人にならず、常に届けたい方の顔を想像する」。

コードレススティック型クリーナー TC-E264B

お部屋の汚れに気がついた時すぐに掃除できる、使いやすさを備えた紙パック式のコードレススティック型クリーナー。独自のヘッド構造により、小回りの利く思い通りの動きを実現します。軽量1.4kg×自走式により、軽い力ですいすい進むので、お掃除の負担を軽減します。

 

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