ものづくりと物語

Vol.7 背伸びせずに使える冷蔵庫/中身が見える冷蔵庫

当たり前を疑い、「本質」から生まれた新たなカタチ
企画デザイン部 神成紘樹

“ものづくりの町”として世界的に知られる新潟県燕三条地域に本社を置く「ツインバード」。その商品にはすべて、開発者の熱い思いと、物語が存在します。今回は、共通のコンセプトを持つツインバードの新商品「背伸びせずに使える冷蔵庫」「中身が見える冷蔵庫」の開発秘話を、担当者の目線からお届けします。

 

 

はじまりは「業界標準」への疑問

冷蔵庫には、「業界標準」と呼ばれるサイズがあります。ひとり暮らしのサイズ、ファミリー向けのサイズ、さまざまな機能の違いこそあれど、どのメーカーも基本的にほぼ同じサイズで製品を作っています。だから引越しの際、同じくらいの広さの部屋であれば、冷蔵庫が入らない、なんてことはないわけです。私はプロダクトデザイナーとして、常々「当たり前を疑い、本質を考える」ことを大切にしています。今回、私が注目したのはこの「業界標準」。そこに疑問を感じたことが、商品開発のスタートでした。

 

きっかけは、背の低い母が、実家でファミリーサイズの冷蔵庫の上段にある食品を、取りづらそうにしている姿を見かけたことでした。業界標準サイズは、果たして本当に最適なカタチなのか。これまでの常識を疑い、本質を追求することで、真に使いやすい冷蔵庫を開発できるのではないか。それは母のためになると同時に、同じような悩みを持つ方の暮らしを豊かにできることでもあると、私は考えました。

 

こうして、最適なサイズの模索からはじめ、同時に冷蔵庫の本質を追求した結果、2つの冷蔵庫、「背伸びせずに使える冷蔵庫」と「中身が見える冷蔵庫」が誕生しました。しかし既成概念を壊し、新たなカタチを創造することは、想像以上に困難を伴いました。

理想を現実へ。挑戦の意義を訴え続けた日々

業界標準。このサイズを守ることは、業界において暗黙のルールとなっています。それを無視することは、何かよくないことがあるのではないか。たとえば、販売店で扱ってもらない可能性もあるのではないか。いやいや、顧客に寄り添った素晴らしい挑戦ではないか──。

 

私が提唱した、冷蔵庫のサイズの見直しは、社内稟議を通すプレゼンテーションの段階から、賛成派と反対派が真っ二つにわかれる事態となりました。ここで全員を説得できなければ、そもそも開発に着手することができません。私は必死でした。なぜならこのままでは、私の描いた理想が、空想で終わってしまうからです。反対派というとネガティブに聞こえるかもしれませんが、これはあくまで経営判断として「売れないものを作るのはいかがなものか」という不安から派生したものであり、挑戦することを否定していたわけではありませんでした。

私は、サイズを見直す「社会的な意義」と「価値」を、現在の冷蔵庫が抱える問題点とあわせて資料に落とし込み、何度も社内でプレゼンテーションをしました。加えて、後発であるツインバードが「中型冷蔵庫の市場に参入する理由」として、サイズにイノベーションを起こすことで、同市場のパイオニア的な存在になれる可能性があることを、私は訴え続けました。もし大手メーカーならば、業界標準を無視するなんて、こんなギャンブルは絶対にしないでしょう。ですが私たちはツインバードです。世の中にとって本質的に価値のあるプロダクトであれば、そのアイデアを無視することはできません。

 

文字通り、私はひとりずつ説得して回りました。やがて私の思いが通じ、「これは意義のある挑戦である」と社内の理解を得ることができました。その日の帰り道は、思わずクルマの中で歓声をあげるほど、うれしかったことを覚えています。しかし同時に、「もうあとには退けないのだ」と、大きな重圧を感じてもいました。

本質的な価値を見つめ、最適な高さと奥行きを模索

私は、「新しい冷蔵庫のカタチ」を考えるにあたり、まずは冷蔵庫の価値を見つめ直すことからスタートしました。そもそも、冷蔵庫の本質的な価値とは何か。基本に立ち返れば、それは「食品を保管する貯蔵庫」であるはずです。であれば、冷蔵庫にとって重要なことは「食材を保存・管理し、いつでもスムーズに取り出すことができる」ことにほかならないと考えました。そのために、私が着目したのが、「高さ」と「奥行き」でした。

 

たとえば、今回の冷蔵庫と同じ351L〜400Lクラスの冷蔵庫の高さは、およそ175cm前後。ちなみに奥行きはだいたい68cmほどです。私の実家にあったものも、ほぼ同サイズでした。女性の平均身長が157cmで、腕の長さの平均が67cm前後と言いますから、冷蔵庫の最上段、さらにいちばん奥にある食材を取り出すことは、多くの女性にとって困難であることがわかります。問題はそれだけではありません。157cmの女性からすると、このクラスの冷蔵庫の最上段は、奥まで目視することも難しいのです。結果、冷蔵庫の最上段は、手前しか使われていないという「無駄」が生まれていました。そしてこの無駄は、多くの女性にとってストレスでもありました。では、どうすればこの問題を解決できるのか。答えは非常にシンプルです。高さを低くし、奥行きを狭くすることで、サイズを最適化すればいいのです。

求めたのは、ぱっと冷蔵庫を開けて、中に何があるかすぐにわかること。女性社員たちの協力を仰いで試行錯誤を重ねた結果、高さは「165cm」、奥行きは「63cm」という最適解に私は辿り着きました。この高さなら、冷蔵庫の最上段は、ほぼ目線と同じくらいになります。上から下まで、さっと確認できる。さらに奥行きも、奥まで難なく手が届く距離です。平均値と比較して、たかが数センチずつの違いですが、この差は数字以上の快適さをもたらします。ですが、このサイズを実現するにあたっては、ある問題が潜んでいました。

直面した容量減少という課題。縦が駄目なら横へ

前述の通り、冷蔵庫の本質とは、食材を冷蔵する箱です。たとえ、使いやすい高さ、奥行きであっても、容量が小さくては本質的な価値を満たしていません。高さを低くし、奥行きを薄くすれば、容量は当然、減少する。どうすればいいのだろう……。私は悩みました。しかしどんなに考えても、選択肢はひとつだけでした。そう、縦が駄目なら、横に広げるしかない。こうして、同クラスの冷蔵庫としては、最大の幅、最薄の奥行き、最小の高さ※という、まったく新しいプロポーションの冷蔵庫が生まれたのです。その名も「背伸びせず使える冷蔵庫(HR-E935W)」です。

※351-400Lクラス 独立野菜室を持つもの 2023年3月現在 国内販売 当社調べ

こだわったのは、冷蔵室だけではありません。冷凍室にも、こだわりが詰まっています。私は、現代人のライフスタイルと、業界標準の冷凍室の容量にミスマッチが起きている、ニーズに対して容量不足が起きていると感じていました。ですから今回も、冷凍室の容量は極力大きくすべきだと考えました。ですが、そのためには、何かを削る必要がある。悩んだ末に私が出した結論は、自動製氷機は設けず、製氷皿を採用することで、容量を最大化するという選択でした。

 

一方で、冷凍室の容量は大きいものの、自動製氷という機能は欠いていますから、せめて使いやすいカタチにしたいと思いました。そのなかで、従来の製法皿の「使いづらさ」に気づき、アップデートしたいと考えました。従来の製氷皿は、水がこぼれやすく、氷を作るのを手間に感じる構造になっていました。このストレスを軽減したい。私はそう考えました。そこで「蓋を付ける」という工夫によって、問題解決を図りました。さらに、氷の型枠となる仕切りを蓋の側に付けることで、使うときは蓋を外すだけで氷が勝手に分割されるようになっています。

 

これまでも「蓋付きの製氷皿」は存在していましたが、ツインバード製の使いやすさは、自信を持っておすすめできます。蓋がスムーズに外れるような素材や形状は、何度も3Dプリンターで検証。苦労の末に、ツインバードオリジナルの製氷皿は完成しました。使ってみるとわかるのですが、水を注いで蓋をするだけというシンプルな構造は、想像以上に便利です。見えづらい部分ですが、この製氷皿にもツインバードらしい、探究心が詰まっています。他にも、同サイズでは滅多にない、両側に開く「フレンチドア」を採用したり、野菜室を二段に分割したりするなど、細部にわたって、すべてを疑い、検証しながら設計を進めていきました。

さらなる価値向上のために「見える」をプラス

最上段の奥までよく見えて、手が届き、食品を管理しやすい冷蔵庫。新しい冷蔵庫のカタチを見つけ、私は喜びに包まれていました。ですが、この冷蔵庫をさらに”見やすく”するためのアイデアが私の頭には浮かんでいました。それは、ドアを開けなくても、中身が「見える」ことです。シンプルに考えれば、ドアの一部をガラスにすれば、中はいつでも完全に見える状態にできます。しかしいつでも見えることは、プライバシーを損なうことでもある。そこで、ガラスではなくハーフミラーを採用することで、タッチしたときだけドアが透ける仕様を採用することにしました。

 

ところが、ハーフミラーの部分を大きくすると、どうしても断熱構造の問題で冷却機能が低下してしまいます。中身がスムーズに確認できる程度には大きく、冷気が逃げすぎない程度には小さく。さまざまなサイズや形状を試し、ついに現在のカタチにたどり着きました。センサーにタッチすることで、ミラーガラスが透けて冷蔵庫内が確認できる。ベースとなっているのは「背伸びせず使える冷蔵庫」ですから、最上段の高さが低く、奥行きも浅いため、片方のドアからすみずみまで見渡すことが可能です。ちなみにドアは、ハーフミラーが馴染む鏡面デザイン。中を見ないときには自然な外観で部屋に馴染むことも、こだわった点です。

誰のためでもない、あなたのために作った冷蔵庫

常識を覆すことで生まれた「背伸びせず使える冷蔵庫」と「中身が見える冷蔵庫」は、同じルーツを持つ二卵性双生児のような関係性にあります。どちらにも、ツインバードの本質を追求する「感動シンプル」のイズムが詰まっています。冷蔵庫は、平均で10年以上使用する生活の必需品です。毎日、必ず使う「生活の道具」とも言えます。だからこそ、ちょっとしたことが気になるわけです。そして小さなストレスも、チリも積もれば山となる。ストレスがない方が、絶対に心は穏やかです。

 

きっと、実際のプロダクトに触ってもらえれば、「背伸びせずに使える」こと、「中身が見える」ことの利便性を体感していただけると私は信じています。そしてそこには、小さな感動があり、使い続けることでわかる快適さが存在します。誰のためでもない、あなたのために作った冷蔵庫です。ぜひ、新しい冷蔵庫のカタチ、そこにある豊かさを知ってもらえたら幸いです。そしてこの冷蔵庫を通じて、あなたを笑顔にすることができたなら、こんなにうれしいことはありません。

神成 紘樹(かんなり・ひろき)
ツインバード 企画デザイン部

前職で企画営業を経験。その後、2019年にツインバードに入社。企画デザイン部に配属される。2ドア冷凍冷蔵庫のほかに、調理家電の開発にも携わる。

商品開発における信条は「当たり前を疑い、本質を考える」。

背伸びせず使える冷蔵庫 HR-E935W

すべての⼨法を⼈のからだのサイズに合わせて設計した、あたらしいかたちの冷蔵庫です。⾼さは低く、奥⾏きは浅く、幅は広く。容量を保ちなが
ら、すべての段がスムーズに⾒える、⼿が届く。⼈が暮らしの中で気持ちよく使えることをいちばんに考えました。

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中⾝が⾒える冷蔵庫 HR-EI35B

ドアを開けずに中⾝が⾒える”タッチ&ビュー”機能を搭載した冷蔵庫。 ドアについたセンサーに軽く触れると、ハーフミラーが透けて、開けずに庫
内が確認できます。「開けたら閉める」が当たり前だった冷蔵庫との、新しい関わり⽅を作り出します。

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